ハーブ&ドロシー ( Herb and Drothy )

Argosy, New York 59th and Lexinton

先週、ニューヨークに行ってきました。マンハッタン59番通りをレキシントン・アベニューに向かって歩いていると、Argosyという古本屋さんが。。中をのぞくと、有名人のサインがたくさん売ってました。写真入りサイン、手紙、サイン入り野球カード・・・バート・ランカスターで80ドルくらい。なんでもコレクション対象になるんですね。時間の積み重ねを味わえるから面白い。

ミニマル・アートやコンセプチュアル・アートの著名なコレクター ハーブ&ドロシー( Herb and Drothy )夫妻の活動を追ったドキュメンタリー映画「ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人」も、夫妻が積み重ねた時間をたくさんのカットで上手く表現している作品です。

ハーブ&ドロシーは、作品が完成する過程、そのまた過程までが作品一部だと考えています。チャック・クロース(Chuck Close)は、「こんなものまで持っていくのか」と映画のなかで言っています。

この映画ででてくるコンセプトで一番面白かったのは、ローレンス・ウィナー(Lawrence Weinner)の「文字は信じてはいけない」というもの。Woodも木も同じ「木」を指しているのに、表現が違います。だから、言語を信じるなというのです。

けれど、僕が思うに、同じものなのに違う表現をしているところに、空間と時間が内包されていて面白いとも思えます。

コンセプチュアル・アートやミニマル・アートは、「裏になにかあるんでは」と、つい引き込まれてしまうのが面白い。

水墨画も同じ。描かない場所にアイデアを込めています。描いた部分だけでなく、空白にも意思があります。ソル・ルウィット(Sol Lewitt)は、「一見シンプルに見えるものも、複雑性が内在している」と言っています。

シンプルにして、心を惹きつけておいて、作家の思考過程に入りこませる。作家と同じことを体験してもいいし、違うことを体感してもいい。平面な作品を立体的に楽しむのがアートの醍醐味。

ツイッター、フェイスブック、ブログが広まり、コミュニケーションツールが多様化している現在は、ミニマルな表現はとてもニッチな存在でしょう。

ハーブ&ドロシーが面白がった作家や作品の思索の過程、経過した時間は、全て作家がオープンにしてしまいます。作家どころか、あらゆる人が、全ての時間や思考をネット上に公開しています。

河原温は、絵葉書をハーブ&ドロシーに毎日送って時間と空間を視覚化しましたが、ソニーがやっているLifeXは、同じことを誰もができ、さらにそれを大勢と共有できます。絵葉書では1対1でした。

ハーブ・ボーガンは、とにかくインデペンデント!そこがいい。「他人がアートを売買するのは、とやかく言わない。ただ、僕はやらない」自分の主義は明確だけど、他人には押し付けないのがとてもいいです。サバサバして好き。

ドロシーが、クリスト&ジャンヌ=クロード(Christo and Jeanne-Claude)のセントラルパークのオープニングで「誰でも思いつくけど、実際にやるところが凄い」と言っています。人生、実行が全て。

2人の新婚旅行がワシントンのナショナル・ギャラリー、そして絵を寄贈した先もナショナル・ギャラリー。「やっと子供を送り出したという感じね」 映画は、ナショナルギャラリーで始まり、ナショナルギャラリーで終わっています。

11月22日には、青山学院大学でこの映画を製作した佐々木芽生監督と鳩山幸さんの対談があります。現在、ハーブ&ドロシーを見られる映画館は、渋谷のシアター・イメージフォーラムだけですが、12月からは、沖縄・大阪・名古屋・広島・横浜でも公開されるようです。

ナショナルギャラリーに寄贈されたコレクションは、1000作品を残し、残りを米国50州に50作品ずつ分配されています。佐々木監督は、その動きを追った続編も撮影しているそうです。